映画『夢みる校長先生』のレビューと気づき

シネマディクトで上映されていた「夢みる校長先生」を鑑賞してきましたので、レビューと気づいたことを書き留めておきます。

「夢みる校長先生」は教育改革をテーマにした映画で、映画「夢みる小学校」のスピンオフ作品です。

内容としては、子どもファーストの教育改革を掲げ、時代に合った教育であったり子供たちがより幸せに通える学校を校長先生が作った様子が描かれています。

生徒の様子も描かれていますが、学校を運営している校長先生や現場の先生、そして保護者にフォーカスした作品です。

非常に面白い作品で、新しい形の教育やオルタナティブ教育に興味がある方は必見です。

校長が動けば学校は変わる

まず、一般的には法律や指導要領、教育委員会などが非常に強い拘束力を持っていると考えられていると思います。

実は、最も大きな権限を持っているのは校長先生なのです。

具体的には、この映画で示されているように、通知表なしや校則なし、宿題なしといった取り組みが可能です。

校長先生の権限でこれらのことが実現可能です。

この映画では校長先生が中心に描かれますが、校長先生自身に人としての魅力や他の先生を引きつける力を持っていることが伝わってきました。

生徒や他の先生たちからの信頼される様子も描かれており、そうした校長先生の魅力が教育の理想的な形につながるのではないかと感じました。

これが日本型の新しい教育

この映画は、日本独自の新しい教育の形を予感させます。

映画に出てくる校長先生は、日本の一般的な校長先生の見た目や言動と同じですが、素晴らしい教育を提供している学校であるという印象を受けます。

ここに日本的な新しい教育の形を感じました。

我々日本人が北欧的な教育への憧れを持つ一方、各国の時代背景は異なりますし北欧の個人主義の捉え方は、日本のそれとは大きく異なるため、北欧の教育方法を日本にそのまま適用するのは難しいと思われます。

その意味で、「夢みる校長先生」が示す新しい日本の教育の形には、大きな希望を感じられます。

何より生徒が楽しそう

今回の映画では、生徒はメインではありませんが、それでも印象に残るのは生徒の姿です。

生徒たちの表情や態度をみるとやはり、楽しそうで充実している様子が見て取れます。

これは、生徒自身が何を学ぶかを自己決定していることによるものが大きいのではないかと感じました。

例えば、映画に登場するシーンでは、元々は算数の授業だったものが、ヤギの飼育をテーマとしたプロジェクト学習に変わっていきます。

つまり、生徒たちの選択によって実際の授業内容が変わっているのです。

生徒の選択が実際に取り入れられることが、主体性を高めていて、非常に良い教育環境だと感じました。

こうした自己決定を促進するためには、生徒から先生への信頼が必要です。

この信頼関係をどのように築くかが、教育の鍵となります。

関連して、意見の表明権も重要です。この権利は、子どもの人権規約にも記載されており、今後、「意見表明権」は非常に重要なキーワードになると思われます。

今までの日本の学校では、子供の意見を表明することを抑制してきましたが、そのような制約を取り払うことが、主体性の育成の基盤となると考えられます。

先生も楽しそう

次に先生が楽しそうにしているのもはっきりと感じられました。

映画では「通知表なし」の学校が紹介されていますが、重要なのは単に「通知表なし」で終わらないところです。生徒の見取りをしっかりした上で、数値ではなく言葉を用いて評価しているのです。

具体的には、面談やアプリを使用して、生徒がどの部分で成長しているのか、どの点が優れているのか、を明確に指摘します。

通知表の数値ではなく言葉による評価を行い、具体的なフィードバックを提供するスタイルを採用しています。

先生たちも数値の集計の事務作業をするより、保護者の方とコミュニケーションを取る方がやりがいを感じるのではないでしょうか。

こうした評価方法が、先生たちが教える楽しさを増幅させていると感じます。

先生はどこから来るのか

伝統的な公立学校の先生の役割と、この映画で描かれている新しい学校の先生の役割は大きく異なります。

ここで感じる疑問は、もし他の公立学校の先生が、新しい形の学校に転任した場合どのように感じるかという点です。

これに関して、映画では先生たちも新しい環境に適応していく様子が描写されています。

このような新しい形の学校に来た場合、先生たちはその文化を徐々に取り入れ、新しい環境に順応していくようです。

インタビューでは先生から「ここではこれが普通ですよ」というような趣旨の発言があったと思います。それまでの赴任学校とは全く違うスタイルの学校経営であっても、ポジティブな意見を持っているように感じました。

むしろ、これまでの伝統的な学校の方法論に違和感を感じつつも続けてきた先生たちもいます。

このような先生たちは、新しい形態の学校に転任することで、自らを解放しより人間中心の教育を実践することができます。これは先生たちにとっての大きなメリットとなるのではないでしょうか。

今後の広がりに希望がもてる

この映画を見て、私は今後このような学校がじわじわと増えていくのではないかと感じました。

公立学校でも校長先生次第で実現可能だと考えると、新しい形の教育や学校が徐々に増えるのではないかと予想します。

この映画は、新しい教育の方向性に希望を持たせてくれる素晴らしい作品だと感じました。

また、世間の「常識」というものも、このような映画を通じて現実の状況を理解することで、良い方向に変わっていくでしょう。

今は新しいと思われることも、この映画をきっかけにして、今後の新常識」となっていくのではないかと思います。

その意味で、この映画は非常に希望に満ち溢れた作品であったと感じます。

リアルな難しさ

その一方で、映画を通じて新しいスタイルの学校を作る難しさもはっきりと伝わりました。

映画という視覚的な媒体を通じて、その難しさをよりリアルに感じられたように思います。

まず、映画の中のインタビューでは、校長先生が「生徒のための学校を作るには”異端”でなければならない」とおっしゃっていました。

公立学校でも新しい教育方法が可能であり、既に成功例が存在することは示されていますが、しかしながら、そのような教育を実践できる校長先生の数は限られていると感じました。

今回の映画に登場する先生たちは、特に飛び抜けた能力を持つ方々だということもありますが、学校全体の方針を変えるほどの校長先生は、非常に珍しいのではないかと感じます。

映画で描かれているような、魅力的で才能に溢れ他人を引きつける能力を持つ校長先生で、なおかつ新しい教育方法に対する知識や姿勢を併せ持つことは、非常に稀であると思います。

映像を通じて校長先生たちのお人柄を知ることで、その難しさをより実感することができました。

特に、マインドセットやスキルの面で、強い起業家精神を持つ校長先生であるというのが共通点かと思います。

イノベーションを起こすような起業家精神を持つ先生でなければ、学校の方針を変えて新しい教育を実践するのは非常に難しいのではないかと思いました。

目に見える形がほしい

さらに課題を挙げると、保護者や先生が具体的な目に見える成果を求める点があるかと思います。

例として、通知表を廃止することを考えると、通知表を廃止し、面談を通じて言葉での評価に切り替えるのは大きな不安が伴うと思われます。

目に見える形があったものを、目に見えないものに変えることには抵抗があるはずです。

誰が悪いということではなく、これは我々が乗り越えるべき大きな課題であると感じます。

これは保護者だけでなく、一般的な校長先生にとっても具体的な目に見える成果が得られないことを実行できるかという大きな課題があると感じました。

先ほど触れたように、学校を変えるような起業家精神を持つ校長先生が公立学校に多いわけではありません。

ごく普通の校長先生が新しい教育スタイルや学校を実現するための方法を考えるときにも、目に見える形を強く求められる傾向があり、これをどのように乗り越えていくかが課題として立ちはだかります。

ネガティブな例でいうと、肝心な部分を無視して形だけを模倣するような状況も起こり得ると思います。

例えば、生徒や保護者との信頼関係や対話なしに、単に通知表を廃止するといった方針が実施されると、結果としてうまく機能しない可能性が高まります。

形だけの取り組みではなく、ごく一般的な校長先生でも再現可能なシステムや仕組みの重要性を強く感じました。

学年制は廃止できないのか

映画を見て一つ素朴な疑問が浮かびました。このような新しい取り組みをしている公立学校でも、学年制が取られている点が非常に気になりました。

法律による制約かと考えています。

例えば、北欧やオランダの教育スタイルでは、異なる年齢の子どもたちが一緒に学ぶことが教育上、良い影響をもたらすとされ、実践されています。

大正自由教育でいうと、「窓ぎわのトットちゃん」でも異年齢の生徒同士の交流を通じて、多様なコミュニケーションや学びが描かれていました。

同年齢の生徒だけで構成される学年制が、なぜ継続して行われているのかという点を疑問に感じました。

まとめ:希望の映画

映画「夢みる校長先生」は、日本型の新しい教育の形を提示しています。

校長先生が中心となり、先生の持つ魅力や権限を通して、通知表なしや宿題なしのような革命的な取り組みが紹介されています。

この映画を通じて、現代の教育の常識が変わっていく可能性があり、新しい教育方法の実践にも広がっていくことにも希望がもてます。

日本の教育が、より良い方向に向かっていることを感じられる希望の映画です。

新しい形の教育やオルタナティブ教育に興味がある方は必見です。

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